劇作家 三島由紀夫「お芝居」のなかの告白

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著者: 柴田勝二 著

商品コード 9784867730362

サイズ A5判

ページ数 322頁

発売日 2024年7月1日

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ポイント: 24 Pt

小説の面白さと戯曲の面白さの違いは何だろうか。かつて芥川龍之介と谷崎潤一郎が小説の筋をめぐる論争をおこなった際、谷崎が小説の条件として「構造的美観」を重視した(『饒舌録』)のに対して、芥川が志賀直哉の『焚火』などを念頭に置いて、「「話」らしい話のない小説」を「詩に近い小説」として称揚し、「構造的美観」をもちうるのは小説よりもむしろ戯曲であると主張した(『文芸的な、あまりに文芸的な』)ことはよく知られる。
この論争がおこなわれる少し前に誕生した三島由紀夫は、谷崎の称揚する「構造的美観」を備えた小説を容易に書きうる技量を持った作家であり、それゆえ優れた戯曲の書き手でもあったというのは分かりやすい議論である。序論の冒頭に述べたように、三島文学については小説よりも戯曲の方に軍配を上げる見方が古くからあり、私自身もその小説作品を愛好する一方で、三島戯曲こそが戦後演劇の最高の達成であるという思いを持っていた。そして三島が優れた劇作家であるのは、台詞の華麗さに加えて「構造的美観」をもたらす条件であるプロット構築の巧緻さが際立っているからであり、反面その巧緻さが、小説ではしばしば作り物的な印象を醸す要因にもなっていると考えていた。
もちろんこれは奥野健男など諸家の語る、三島文学についての常識的な評価にすぎない。三島文学に対する膨大な言説が積み上げられているにもかかわらず、その戯曲世界への探求がまだ十分におこなわれていないという不満を覚えていたこともあって、この常識を辿り直すに終わるかもしれないと思いつつ、三島の代表的な戯曲作品をあらためて読み直し、論じることを始めてみた。すると見えてきたのは、三島戯曲の魅力は芥川が戯曲の美点として評価した「構造的美観」もさることながら、登場者たちがその場のいることの必然性に促されておこなう発話のやり取りのなかに、それぞれの人物が抱えた内面がしばしば思いがけない形で浮上する展開に、より大きな面白さがあるということが見えてきた。その内面は発話の主体自身も意識していないものであ
ることがあり、それが主体に新しい自己認識をもたらすと同時に、それを崩壊に導くこともあるのだった。

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